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第5話 「キャッシュレス」と上手につきあっていく力の育み方 【マネー教育最先端のイギリスに住んでわかった「日本に足りないお金の教育」】


前回のコラムでは、キャッシュレス化が進むイギリスのマネー教育を参考に、まずは「お金の基礎」づくりが大切であることをお伝えしました。

このコラムでは、キャッシュレスの利便性と注意点を踏まえたうえで、上手に付き合っていく力を育むために家庭で実践したいいくつかのアイデアを紹介します

キャッシュレス社会への備え、一人で行動しはじめる前に「現金」から始めよう

子どもがキャッシュレスを使い始めるタイミングは、多くの場合、親と行動を共にしなくなる時です。

イギリスでは、中学生になると1人で通学し、学校のカフェテリアや放課後など、お金を使う機会が増えます。現金だけでなく、スマホアプリで利用状況を確認できるプリペイドカードやデビットカードを子どもに持たせている家庭もあります。また、指紋認証決済ができる学校のカフェテリアもあり、イギリスに住む中学生にとってキャッシュレスは身近な決済手段になっています。

一方、日本では小学生になると電車通学や習い事、友達との外出など、子どもだけで行動する機会が増えます。交通系電子マネーや親のスマホアプリに紐付けされたプリペイドカードを持たせているご家庭もあるのではないでしょうか。住んでいる地域や生活スタイルによって異なりますが、子どもが一人で行動し始める小学生の頃から、キャッシュレスに触れる機会が増えてきます。

しかし、急激にキャッシュレス化が進んでいるため、物理的な現金のやりとりを経験しないままカードを使い始める子どももいるでしょう。買い物をしたら、手持ちのお金が減る、という実感が薄いままにキャッシュレスを利用しているかもしれません。
現金よりも、支払いの手間が少ない上に、お金を使っている感覚がないとなると、使い過ぎてしまう可能性が高くなってしまいます。

実際、現金のやりとりを経験してきた大人でさえ、現金よりもカード払いをする方が1.7倍も多くお金を使ってしまう傾向が報告されています(※1)。

ここイギリスでも、2023年1月に興味深いデータが発表されました。これだけ即時決済できるデビットカードが浸透しているイギリスなのに(※2)、わざわざATMから現金を引き出す人が一時的に増えたのです。それはなぜでしょうか。

その理由として、急激な物価高に伴い、ATMから引き出す手間をかけてでも、生活費をやりくりしやすい現金を使いたい人が増えたのではと筆者は考えています。おそらく、イギリスの人たちは、キャッシュレスよりも、視覚的に把握しやすい現金の方が、管理が簡単であることを知っているからではないでしょうか。ここからも、困難な時ほど基本に戻って立て直す、つまり「現金を扱える力」が大切であることもわかります。

しかし、子どもたちは現金でのやりとりの経験が圧倒的に少ないのが現状です。
イギリスのマネー教育においても、実体のある現金とキャッシュレスでやりとりされるデジタルマネーの両方について、丁寧に話し続けていくことが必要であると言われています。

子どもが1人でキャッシュレス決済を使い始める前に、まずは実体のある現金を通して「お金の基礎」を育みましょう。特に、お金には「ものと交換する」、「ものの価値をはかる」、「貯めておく」ことができる役割があることを、実生活の中で感覚として身につけておくことが大切です。マネー教育を意識して、少額の現金を準備しておくと良いでしょう。子どもにスーパーでの支払いを手伝ってもらったり、渡した金額の範囲内でお菓子を選んでみたり、貯金箱にお釣りを貯めてみたり、と現金に触れる機会を作っておくことで、キャッシュレスへも移行しやすくなります

マネー教育で伝えたい「キャッシュレス」の基本ポイント

現金を使ったマネー教育と並行して家庭できることは、実際にキャッシュレスで支払う場面を見せながら、1つ1つの行動をできるだけ具体的に説明することです。
スーパーやコンビニのレジで会計をする時や、オンラインショッピングで買い物をするときに、カードの使い方を実況中継するとともに、お金を支払ったことをレシートで確認したり、銀行アプリの画面等を見せながら、お金が減っていることを確認してみましょう。

子どもの年齢に関わらず、実生活を通して伝えておきたい「キャッシュレス」の基本ポイントをご紹介します。すでに、キャッシュレスの利用をはじめている家庭でも、改めて確認しておきましょう。
また、キャッシュレス決済には、お金が自分の手元から離れるタイミングが3パターンあることを知っておくことが大事です。それぞれの特徴は、下表の通りです。
特に、クレジットカードは一時的にお金を借りる仕組みです。「信用」がなければ利用することができず、決められた期日までに口座引落としなどで返すことが前提となります

キャッシュレスと上手に付き合うためには実践あるのみ!

次に、キャッシュレス決済の実践を積みましょう。親の行動を見たり、1つ1つの行動について説明を聞いているだけでは、うまく使えるようになりません。満足できるお金の使い方ができたり、カードの残金がなくて払えなかったり、といった経験をたくさん積むことで、自分で考えたり、判断したりしながら、お金を使うことに責任を持てるようになります。

まずは「使ったら減る」を実感しやすい「前払い」方式のカードを使って、練習を始めましょう。一度使ったお金は、戻ってこないことを学ぶのにも最適です

子どもの年齢や生活スタイル、趣味などに合わせて、使用するカードを選ぶと良いでしょう。
例えば、読書好きであれば「図書カードnext」、電車やバス利用が多ければ「SuicaやICOCAなどの交通系ICカード」、オンラインゲーム好きであれば「iTunesカードやGoogle Playギフトカードなどのプリペイドカード」などがあります。

ここでは、交通系ICカードなどの電子マネーを使った場合の手順をご紹介します。
また、日頃から利用しているカードやスマホなどを責任もって管理し、紛失や盗難に備えておくことが重要です。タッチ決済ができるカードを紛失してしまうと、不正利用される可能性があります。紛失したら、どこに連絡をするかなど万一に備えて、連絡先や対処方法を事前に親子で話し合っておきましょう。

<まとめ>

子どもたちにとっても身近な支払い手段になってきているキャッシュレス。子供が1人で行動し始める前から、「現金」でお金のやりとりの感覚を身につけながら、並行して基本的なキャッシュレスの仕組みを知って実践を積むことが必要であるとお伝えしました。

今後も、技術進歩によって、目に見えないところでお金が動く時代は加速していきます。上手な使い方をすれば、キャッシュレスは私たちの生活にとって便利なツールです。キャッシュレス特有の注意点を意識しながら、うまく順応し管理していく力を親子で一緒に身につけていきましょう。

【出典】
※1)日本クレジットカード協会、2017年度調査「民泊とキャッシュレスを両輪とする 地域を巻き込んだ観光立国推進に向けて 報告書(概要版)」
※2)Nationwide Building Society, Note to self; Cash usage rises for first time in 13-years amid cost of living crisis, 2023/1/11

 

★2024年8月11日現在の情報です
(執筆:原田幸子

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