『二次相続』という言葉をご存じでしょうか。一次相続と二次相続では、いくつかの違いがあります。この違いを理解し、二次相続に備えることは、大切な財産を守ることにつながります。
この記事では、二次相続で起こりがちな問題と、困らないためにできる事前準備や対策について、分かりやすく解説します。家族の未来のために、今から少しずつ準備を始めてみませんか?
二次相続とは?
相続とは、亡くなった人が保有していた財産(資産や負債などのすべての権利や義務)を、その人の家族や親族などが引き継ぐことです。相続では、この亡くなった人を「被相続人」、財産を引き継ぐ人を「相続人」、亡くなった人が保有していた財産を「遺産」といいます。
相続が起こるタイミングの多くは、親が亡くなったときです。両親のうち、一方の親が亡くなったときの相続を「一次相続」、続いてもう一方の親が亡くなったときの相続を「二次相続」といいます。
たとえば、父が亡くなり、母と子どもへ遺産相続される最初の相続が「一次相続」で、その後母も亡くなり、子どもへと遺産相続されるのが「二次相続」です。<図1>
なぜ二次相続が問題になるの?
遺産相続には、「相続税」が課されます。そしてこの相続税は、一度目だけでなく二度目にもかかるのです。
短い期間(※)に相続が続くと、相続税も重なり、大きな負担になるかもしれません。特に、相続財産に現金が少なく、不動産が多い場合などは、相続税の支払いに必要な現金を準備しておく必要があるため、注意が必要です。
さらに、二次相続の相続税は一次相続よりも納税額がぐんと高くなる可能性があります。「どうして二次相続は相続税が高くなりやすいのか」、その理由をみていきましょう。
※10年以内の二次相続の場合は、相続税額を少なくできる「相次相続控除」という制度を使える可能性があります。この制度は、前回の相続において被相続人が納めた相続税がある場合に、今回の相続で発生する相続税から一定金額を控除できる制度なので、すべての人が使えるわけではありません。詳細は国税庁HPをご覧ください。
国税庁HP:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4168.htm
配偶者の財産が合算される
たとえば、父、母の順で亡くなった場合、二次相続時の母の遺産には、一次相続(父の死亡時)で相続した財産に、母がもともと所有していた財産が加わるため、遺産額が大きくなることがあります。
基礎控除額が減少する
相続税には、一定の金額を控除できる「基礎控除額」があり、相続財産が控除額内であれば相続税は発生しません。基礎控除額は、法定相続人(民法で定められた相続人)の人数によって異なり、次の計算式で求められます。
<図1>の家族構成(父・母・子2人)の場合を例にみてみましょう。二次相続では法定相続人が1人減るため、相続税の基礎控除額は1次相続と比べて600万円低くなります。
このように、法定相続人の人数が減ると基礎控除額が減少するため、二次相続では納税すべき相続税の金額が増えてしまう可能性があるのです。
参考サイト:相続税の計算
国税庁HP:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
配偶者の税額軽減が使えなくなる
相続税には、配偶者の相続税額を軽減できる「配偶者の税額の軽減」という制度があります。この制度は、配偶者が実際に取得した相続財産が「1億6千万円」、または「法定相続分相当額(民法で定められている相続割合)」のどちらか多い金額までは、配偶者に相続税がかからないというものです。
控除額がたいへん大きく、配偶者にとっては節税効果のある制度ですが、二次相続のときは配偶者がいないため使えません。
参考サイト:配偶者の税額の軽減
国税庁HP:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4158.htm
小規模宅地等の特例が使えない場合が多い
「小規模宅地等の特例」とは、家や土地を相続するときに、一定の条件を満たしていれば相続税が軽減される制度です。
被相続人が住んでいた家を相続する場合、相続人である配偶者や子どもが同居していれば、一定の面積(330㎡)までの評価額を80%減額できます。たとえば、<図2>のように評価額5,000万円、広さ300㎡の家では、相続税の課税対象となる金額を1,000万円にまで減らすことができます。
その他の小規模宅地等の特例に関する細かい適用条件はHPをご参照ください。
国税庁HP:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
二次相続で起こるケースとは?
一次相続と二次相続ではどのような違いが起こるのでしょうか?
<図1>の家族構成(父・母・子2人)の場合の一次相続と二次相続を比較してみます。なお、長男と長女は家を出てそれぞれ独立し、夫婦2人で暮らしているものとします。
<表>のように、二次相続では一次相続よりも相続する遺産は増える可能性があるにもかかわらず、控除額が大きく減少してしまうために、相続税が高くなるケースがあるのです。
家族構成や家族環境によって様々なケースがありますが、一般的には使える控除額の違いによって、相続税が大きく変わってくることを知っておきましょう。
二次相続で困らないための準備と対策
二次相続で相続税の負担を抑えるためには、事前に準備や対策をしておくことが大事です。
先ほどの一次相続と二次相続を比較した<表>の家族を例に、「どんなことに気を付ければ良いのか」「何を準備すれば良いのか」などの対策例を紹介します。
相続が起こる前にできること
【家族でよく話し合う】
できれば一次相続が起こる前に、家族間で相続についてしっかり話し合いをしておくことが大切です。父母の意向を尊重するのはもちろんですが、相続を受ける母や子ども(長男・長女)が困らないように、きちんと話し合っておきます。必要に応じて専門家に相談し、遺言書を作成するのも良いでしょう。
【財産を減らす】
父と母の持つ財産が多い場合は、支障をきたさない範囲で、生活や娯楽のために使って財産を減らすという方法もあります。または、子どもに生前贈与をすることで、相続税の対象となる財産を減らすのも有効です。
両親のうち片方が亡くなったあとにできること
【二次相続を見越した遺産分割をする】
片方の親がなくなる一次相続の遺産分割では、二次相続を見越した分割が必要です。たとえば、値上がりが予想される資産や収益の出る物件(賃貸物件や駐車場など)は一次相続で子どもが相続しておくことで、残された方の親の資産が増えるのを防ぐことができます。
【配偶者は受け継ぐ財産を最小限にする】
一次相続の際、配偶者が受け継ぐ遺産は、二次相続で想定される基礎控除の範囲内にするというのも選択肢のひとつです。ただし、配偶者にもこれからの生活があります。残された配偶者が今後も安心して暮らせるように配慮しながら対策を考える必要があります。
【同居している子どもが住居を受け継ぐ】
<表1>の家族と違って子どもが両親と同居している場合は、一次相続時に子どもが「小規模宅地等の特例」を利用して住居を相続するという選択もできます。そうすれば、二次相続時に住居の相続が発生しないため、相続税の軽減につながることがあります。また、二次相続時には子どもが独立や結婚によって別居している可能性もあり、「小規模宅地等の特例」の利用ができないケースも考えられます。
いずれにしても、相続は法律や税金が関わる複雑な問題であることが多いため、家族や個人ができる対策もありますが、専門知識を有する専門家(税理士、弁護士など)に相談して進めることをおすすめします。
相続は、家族の将来のために考えておくべき大切な問題です。一次相続が起こる前に二次相続までを想定した対策をしておくことで、心配事が減少し、心にもゆとりが生まれるのではないでしょうか。
なにより、家族でじっくり話し合い、将来の計画をしておくことが、家族みんなの安心と、大切な財産を守ることにつながります。
家族の未来のために、今からできる準備を始めましょう!
★2024年10月16日現在の情報です
(執筆:世古瑞智子 監修:張替 愛)
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