かつては教育資金を貯めるのにメジャーだった学資保険。子供の教育費を貯める手段として学資保険を利用している人の割合は、2016年は60%だったのに対し、2022年では49%まで低下でしていることがソニー生命の調べで分かっています。(※)
今回は、学資保険を利用する人が減った背景と、それでも学資保険が教育費貯蓄の手段として選択肢となり得る人を、学資保険のメリット・デメリットから考えていきたいと思います。
(※)ソニー生命『子どもの教育資金と学資保険に関する調査 2016』参照
ソニー生命『子どもの教育資金と学資保険に関する調査 2023』参照
学資保険とは
学資保険とは、子どもの将来の教育費を計画的に準備するための保険です。主に親が契約者・受取人となり、子どもが被保険者となります。契約時に決めた時期(10歳や15歳、18歳など)まで保険料を払い込み、18歳や22歳などに満期保険金を受け取ります。商品によっては、小中高の入学のタイミングで、進学祝い金を受け取るものもあります。
また、保険料払込免除が付帯されていれば、契約者が亡くなった場合でも、そのあとの保険料払い込みは免除され、契約時に決めた時期に、予定通り満期保険金を受け取ることができます。
なぜ学資保険を利用する人が少なくなってしまったのか?
なぜ、学資保険を利用する人がこんなに少なくなってしまったのでしょう。それは、返戻率が大きく低下してしまったことに起因しています。
返戻率は『満期までの受け取り総額÷払込保険料の累計×100』で計算されます。分母にあたる「払込保険料」が以前に比べて上がっているため、返戻率が少なくなってしまったのです。
払込保険料が上がった背景には、各保険会社が決める予定利率の引き下げがあげられます。予定利率とは、保険会社が契約者に約束する保険料の運用利率のことで、金融庁が定める標準利率(過去の10年国債の応募者利回りを参考にして決められる)をベースにして、各保険会社が設定しています。その標準利率が、日銀の行うマイナス金利政策の影響を受け、2017年4月に1.0%から0.25%に大きく引き下げられました。その影響で各社が予定利率も引き下げた結果、返戻率が大きく低下したのです。
筆者が2017年3月に加入した学資保険の返戻率は120%を超えていましたが、現在、同じ保険会社で同様の条件で調べたところ、返戻率は105%となっていました。返戻率がこんなに下がっていては、契約する人が少なくなるのも納得です。
学資保険のメリット・デメリット
このような背景から返戻率が下がった学資保険ですが、本当にメリットはないのでしょうか。メリット・デメリットを見ていきたいと思います。
<メリット>
◎強制的に積立ができる
お金を貯めることが苦手な人にとって学資保険はとてもお勧めです。銀行の口座にあるとついつい使ってしまいがちですが、強制的に口座から引き落とされる仕組みさえ作ってしまえば、しっかりと教育資金の準備ができます。
◎契約者の死亡保障がある
契約者が亡くなった場合、その後の保険料払い込みが免除され、保険料の払い込みがあったものとして、満期保険金を受け取ることができます。この保障機能は大きなメリットと言えます。
◎生命保険料控除が受けられる
学資保険に加入すると、所得控除の一つである「生命保険料控除」を受けることができます。この控除は、その年の所得税と住民税を算出する際、所得金額から、1年間に支払った生命保険料のうち一定の額を控除できる制度です。年末調整もしくは確定申告が必要ですが、この控除を利用すれば、所得税・住民税の負担が軽減されます。
◎契約するのが面倒ではない
意外に思われるかもしれませんが、学資保険の契約はあまり面倒ではありません。必要書類の準備などは保険会社が行うため、煩雑な手続きが苦手という人にとってもお勧めです。
<デメリット>
◎インフレに弱い
学資保険では、満期時に受け取る満期保険金額や進学祝い金額が決められています。保険期間中に、他の投資商品や預金金利が上がった時も、その受け取り総額は変わりません。
このためインフレの状況下では、相対的に価値が減ってしまうという現象が起きてしまいます。
◎受取総額が払込保険料の総額を下回ることもある
世の中がインフレになってしまった場合、預貯金であればすぐに預け替えることは可能ですが、学資保険の場合はそうはいきません。満期前などに保険を解約した場合は、受け取れる解約返戻金額が払い込んだ金額を下回ることがあるので注意が必要です。
学資保険を契約する時にチェックしたい二つのポイント
①契約者が万が一の時の保障内容
保険としての機能を有効に活用するために、ほとんどの学資保険で付与されていますが、死亡時のみなのか、高度障害時にも適用されるのかなど免除の条件が様々です。家庭の状況に合わせた保障を選ぶと良いでしょう。
②返戻率がいくらか
返戻率は商品によっても異なりますが、保険料の払い込み期間や契約者の年齢、また、満期保険金の受取方法によっても変わります。たとえば、10歳までの短い期間で払込を完了したり、両親の年齢が若い方が契約者になる、また、満期保険金を大学時期に複数回に分けてもらったりすることで、返戻率を上げることができます。
学資保険以外の教育費の貯め方は?
●投資信託の積立
投資信託などの運用商品を積み立てする場合も、自動的に口座からお金が引き落とされ投資にまわせるため、強制的に積立可能です。もし始めるのであれば、運用益が非課税となる「つみたてNISA」を利用するのが良いでしょう。インフレ時、物価の上昇に伴って、当初の想定以上に資産が増える可能性もありますが、運用状況によっては元本が割れてしまうリスクもあります。また、保障機能はもちろんないため、契約者が亡くなった時点で積立はストップすることとなるでしょう。
●外貨建終身保険
予定利率が、一般的に学資保険より高水準である外貨建終身保険もひとつの選択肢となります。外貨建てのまま受け取る場合は、払込期間終了後に解約すると払込保険料総額よりも多く戻るケースが多く、貯蓄的要素が強い保険です。しかし教育費として解約返戻金を円で使いたい場合は、お金が必要になる時期に円高になり想定よりも少なくなるリスクがあるため、確実に貯めたい方にはお勧めできません。終身保険のため、被保険者(親など)が万が一の際は、死亡保険金を受け取れます。
●低解約返戻型終身保険
低解約返戻金型の終身保険は、払込期間中の解約返戻金額が低く、保険料払込期間満了を過ぎると解約返戻率が上昇するという特徴があります。一定期間の解約返戻金額が低いため、同じ保障の通常の終身保険より保険料が安い保険です。
一般的に子供が大きくなると加入できなくなる学資保険と異なり、低解約返戻金型終身保険には子供の年齢による制約はなく、加入する時期や保険料の払込期間の設定などを自由に決めることができるのが利点です。子供が15歳になる頃に保険料の払込を終えておけば、その後いつ解約してもまとまったお金を手にすることができるのです。
もし、子どもが少し大きくなってしまい、学資保険には加入できない年齢になってしまった場合でも、この保険を活用することで、親の死亡保障も兼ねた教育資金の準備ができるでしょう。
さいごに
教育費を貯める方法は各家庭で様々だと思います。学資保険は、返戻率は高くなく、あまり流行っていないというのが現状です。しかし、貯金が苦手、投資が怖い、煩雑な事務が苦手という方には、向いている商品だと筆者は考えます。そして、万が一の時に払込免除という保障があるという点は、何事にも代え難い安心感につながるのではないでしょうか。
返戻率が高くないからといって学資保険を最初から検討しないのではなく、選択肢の一つとして考えることをお勧めします。
★2023年6月1日現在の情報です
(執筆:渡部 ナオコ)
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