終活のひとつとして準備する『エンディングノート』と『遺言書』。どちらも自分の想いを家族や大切な人に伝えるものです。しかし、それぞれの目的と用途は大きく違います。
この記事では、それぞれの特性を比較しながら、エンディングノートと遺言書の違いについてご紹介します。使い分ける際の参考にしてください。
エンディングノートとは?
エンディングノートは、いざというときに備えて、自分の様々な情報を書き記しておくものです。たとえば、お葬式の希望や保有している銀行口座のことなど、遺される家族が手続きに困らないように、必要な情報を残します。
また、エンディングノートを書くことは、これまでの自分の人生を振り返ることにもつながります。自分自身への理解が深まることで、これからの生き方や資産形成について改めて考える良いきっかけにもなるでしょう。
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遺言書とは?
遺言書は、『自分が亡くなった後に自分の財産をどのようにしたいのか』という意思表示を正式に記しておくものです。遺言書に従って遺産分割が行われますので、自分の意向に沿った財産の分配や処分ができます。
たとえば、「誰に財産をどのくらい相続させたい」「財産を寄付、遺贈(相続人以外に譲る)したい」などの希望を遺言書に書くことで、自分の望む相手に財産を渡すことや、相続人以外に財産を譲ることが可能になります。また、遺言書を作る際には、財産分与について家族と話し合っておくことで、相続の手続きをスムーズにし、遺された家族の負担を軽減することができます。
遺言書には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があります。
エンディングノートと遺言書の法的効力などの違い
エンディングノートと遺言書は、『遺志を伝えるためのもの』という点は共通していますが、法的効力の有無や形式などに大きな違いがあります。
主な違いは<表1>のとおりです。
5つの違いを項目ごとに確認しましょう。
法的効力の有無
エンディングノートと遺言書の最も大きな違いは『法的効力があるかないか』の点です。
エンディングノートは自分の気持ちや希望を伝えるものですが、法的な効力がないので強制力はありません。
それに対して、法的な効力のある遺言書は、書かれている内容に従わせることができます。ですから、相続のときは遺言書に書かれている内容に従って遺産分割が行われます。
書き方のルール
エンディングノートには書き方の決まりがありませんので、自分の好きなように書き綴ることができます。市販のエンディングノートや手作りのオリジナルノート、PCやスマートフォンのアプリの利用など、使うものも自由です。
一方、遺言書は法的な効力を持たせるため、民法で定められた書式に従って作成する必要があります。もし、書式に不備があった場合は、遺言書としての法的効力が失われてしまうので注意が必要です。
記載する内容
法的効力を持たないエンディングノートには、自分の思いのままを何でも自由に書くことができます。
遺言書も、内容の制限はありませんので、何を書いてもかまいません。ただ、遺言書の本来の目的は法的効力を持たせることにあります。そのため、遺言書には法的な効力が認められる内容(民法で定められている項目)を記載するのが一般的です。
開封のタイミング
エンディングノートは本人の望むタイミングであればいつでも見ることができます。生前でも確認できますので、不慮の事故や認知症などで意思疎通ができなくなったときでも、家族は本人の希望を知ることができます。
一方、遺言書の開封は死後に限られます。公正証書遺言であれば、すぐに開封しても問題ありませんが、自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合はすぐに開封できません。必要書類を提出し、家庭裁判所の検認を受ける必要があるため時間がかかります。
作成にかかる費用
エンディングノートは、自宅にあるノートやPCを使って作成すれば、費用はほとんどかかりません。専用のエンディングノートを購入したり、スマートフォンの有料アプリを使うと費用はかかりますが、数百円から数千円ほどで作成できます。
しかしながら、遺言書は作成の仕方で費用が大きく違ってきます。
公正証書遺言は公証役場で作成してもらうため、法律で定められた作成手数料がかかります。金額は相続する財産額により異なりますが、数千円から数十万円です。
自筆証書遺書の場合は、自宅にある紙やPCを使えば費用をかけずに作成できます。しかし、法的に有効な遺言書をスムーズに作成するために、金融機関(銀行や信託銀行)や専門家(弁護士、司法書士、税理士、行政書士など)に依頼するケースも少なくありません。その場合は、一般的に数万円~数十万円の費用が必要になります。
費用はかかりますが、金融機関や専門家に依頼すれば、自分の希望を専門家に相談しながら、法的に問題のない確実な遺言書の作成ができます。他にも、『相続税対策についてのアドバイスが受けられる』『相続手続きのサポートをしてくれる』『必要書類を集めてくれる』などのメリットも得られます。
「遺言書の内容を確実に実行させたい」「家族間の争いは避けたい」「内容が不安で相談したい」など、気になることがある場合は、専門家に依頼することも検討しましょう。
意思表示と思いやりで安心の未来を!
エンディングノートと遺言書は、それぞれの特性の違いを生かし、互いを補い合うことができるため、どちらも準備することをおすすめします。
たとえば、遺言書で指示する遺産分割の内容について、「なぜ、そうしたのか」「どんな想いが込められているのか」をエンディングノートに記しておけば、家族の安心と理解を深めることができます。また、遺言書を作る過程においても、資産状況を整理したエンディングノートの内容が役立つことでしょう。
エンディングノートには感情的な側面である家族への想いや希望を綴り、遺言書には法的な側面である相続や財産について記載することで、あなたの意思をより正確に伝えることができるのです。
ただ、作成にあたっては一方的にこちらの希望を押し付けるのではなく、家族の気持ちも尊重しながら進めるのが理想です。そのためには、日頃から家族間でしっかりと会話をしてコミュニケーションが取れていることが望ましいですね。そうすれば家族間のトラブルも回避できますし、形になった思いやりがお互いの安心感へとつながります。
エンディングノートも遺言書も、家族や大切な人へのあなたの気持ちがつまったかけがえのないものです。上手に使い分けて、自分の意思をしっかりと伝える準備をしましょう。想いが込められたエンディングノートや遺言書は、受け取る人にとっても宝物となります。
★2024年7月1日現在の情報です
(執筆:世古瑞智子 監修:張替 愛)
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