先日、老後の生活資金として年金のほかに2000万円の備えが必要である、とまとめた金融庁金融審議会の報告書が、世間で話題になりました。
そして、それをキッカケに「つみたて投資」に興味を持ちセミナーに参加したり、実際に「iDeCo」や「つみたてNISA」を始める人が増えたそうです。
(日本経済新聞「老後2000万円」動く個人 ネット証券に申し込み急増 2019/6/25付け)
報告書問題は結果として、資産形成を必要とする現役世代に具体的な行動を促した、と言えますね。
そんな流れがあるなかで、わたしの知人もiDeCoの申し込みをしたのですが、運用商品を選ぶ段階でこう言ったのです。
「拠出金全部を定期預金にしようかな。定期預金を選択しても節税のメリットはあるんでしょ?」
知人は30代。60歳以降にiDeCo資産を受け取るまで30年近くの運用期間があります。
長期投資ができるだけの時間がたっぷりあるというのに、どうしてそう思うのか聞いてみました。
すると、
「だって、これから株が下がったら資産が減っちゃうでしょ。運用の未来に不安しかないから。」
なんということでしょう。
わたしがもし30代だったら、間違いなく世界の株式に投資する運用商品を選ぶのに。
どうやらこれまでの日本の株式市場の冴えないイメージから、運用に対して積極的になれないようなのです。
もちろん、定期預金などの元本確保型の選択も立派な資産形成ですよ。
でも、せっかく数十年という長期の運用期間があるなら、つみたて投資の「強み」を知って、投資を続ける上での「ビビらない資産配分」を検討して、それから運用商品を選んでほしいと思うのです。
なぜなら選んだ運用スタイルによって、数十年後に老後を支える資産に大きな差が出るかもしれないから。
■つみたて投資の「強み」とは
投資を「つみたて」ですることの強みは、運用の買い付けが複数回になること。
期間にもよりますが何十回、30年間毎月のつみたてなら360回にも!
一方、つみたてではない投資だと、買い付けが「一度」あるいは「一回」になり、投資するタイミングが運用成果にダイレクトに影響します。
でも買い付けのタイミングが複数回になる「つみたて」だと買値がバラバラになり、買い付けタイミングの影響は極めて少なくなります。
そして「つみたて」投資のもうひとつの強みは、定額で買い付けるため「ドルコスト平均法」の効果が得られること。
つみたては通常一定の金額(例えば毎月1万円など)で投資するので、買値が高いときは少なく、安いときは多く買い付けることになります。
すると、一時的に投資先が下落したとしても、バラバラなタイミングで投資した資産全体がその後の回復過程で大きく成長することが知られています。
以前のコラムでもご紹介しましたが、バブル最高値(1989年)の時から日経平均株価に連動する投資信託で毎月1万円の積み立て投資をしていたら、約30年後の現在(2019年)で資産は約1.5倍程度にまで増えています。
現在の日経平均株価は、いまだ当時の半値近くであるにもかかわらず、です。
(参考コラム:バブルのピーク時から日経平均株価に毎月1万円の積立投資を続けていたら?)
ちなみに、同じ期間で日本の株式でなく、先進国の株式につみたて投資をしていたら、資産は約3倍になり、内外の株式・債券の4資産に分散投資していたら約2倍という運用成果が出ています。
(参考記事:日本経済新聞「波乱相場こそ 長期積み立て投資が強みを発揮」2019/08/17付け)
■つみたて投資を続けるための「ビビらない資産配分」とは
数十年という期間で見ると、一般的に景気は好景気・不景気を繰り返します。同じように株価も上昇・下降を繰り返します。
ということは、長期的に世界の経済は成長すると思って世界の株式に投資をしても、その運用期間中には株価が上昇・下降し「つみたて投資」の資産評価額も増減します。
そんなことはわかってる、と頭では理解していても、実際に自分の大切な資産を運用していたなら冷静ではいられないもの。
評価益が大きくなれば嬉しくなり、評価損が膨らむとガッカリ、あるいは嫌なドキドキがあるかもしれません。
先ほどのバブル最高値からのシミュレーションも、つみたて投資を30年近く継続したからこそ資産額が2倍3倍となったのですが、その過程では「ガマンの期間」もあったんです。
(参考データ:「資産下落の耐性高める」日本経済新聞 2018/09/01付け)
特に2008年のリーマン・ショックは株式市場に大きなダメージを与え、株式だけで運用していたら下落のピーク時には資産評価額は約半分に!
その後5~6年で世界の株式市場は回復し資産評価額もプラスに転じるのですが、短期間で急激に資産が目減りするような状況下では怖くなって投資をやめたり、運用資産を現金化した人もいたようです。
そんな状況下でもつみたて投資を継続した人が、資産を大きく増やすことが出来たのですね!
ちなみに、2008年の下落時、運用資産の半分を債券に投資していたら、資産の評価損も半分に抑えることが出来ました。
山あり谷ありの運用期間を投資継続しながら過ごすには、自分にとってどれくらいの資産配分が適切か考えるヒントになりそうですね。
つみたて投資の「強み」や自分に合った「資産配分」がわかれば、運用商品選びも変わってくるかもしれません。
そして、100年に一度の衝撃と言われたリーマン・ショックのような下落時のデータを知って、今後同じような局面が来た時にうろたえることなく「つみたて投資」を継続できれば、長期の資産形成に期待ができるのではないでしょうか。
★2019年8月29日現在の情報です
(執筆 冨田仁美)