日本経済新聞の土曜日マネー&インベスト面、老後のお金コーナーに、2週にわたって掲載された「財政検証㊤㊦」。読まれましたか?
少し前にも老後資金が2000万円不足すると話題になり、今回の財政検証では、いよいよ年金が具体的に減っていくようなイメージを持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
(日本経済新聞 2019/08/31付け 財政検証㊤より抜粋)
61.7%が50.8%になるということは、約2割減!
正直わたしも「えーーーーーーーーっ!」と思いました。
あたかも年金が激減するように思ってしまったのです。
でも、この数字はあくまでも「所得代替率」で見たときの話。「年金額」とは別なんです。
ショトクダイタイリツ?
そもそも言葉の意味もわからず、余計に不安になる。って声が聞こえてきそうです。
公的年金の見通しは、とても重要な内容なのに、ホントのところがよくわからないと困りますね。
そこで今回は記事を参考に、財政検証が伝えるところを現役世代目線で見てみたいと思います。
■財政検証とは
年金財政を長期的(おおむね100年間)に持続させるための仕組みを作ったのが、平成16年(2004年)の年金制度改正です。
長期的な運営となれば、その間の人口動態や経済状況など、社会環境の変化による影響に対応する必要があります。
そこで、長期的な給付と負担のバランスが保たれているか、バランスが保たれる給付水準はどの程度になるかを、定期的にチェックするのが「財政検証」です。
財政検証は5年に一度行われ、直近では2019年8月27日に厚生労働省の社会保障審議会で話し合われました。
今回の検証では、将来の人口推移・労働参加・経済状況を勘案し、前提を6つのパターンに分け試算を行っています。
そのパターン3の「労働参加が進み、物価上昇率1.2%、賃金上昇率1.1%、経済成長率0.4%」という、各前提がほどほどに推移する想定で試算された結果が、先の所得代替率50.8%です。
■年金支給水準は「所得代替率」で考える
「所得代替率」って、耳慣れない人も多いでしょう。
漢字のイメージから、現役の時にもらっていた給料の何割くらいを年金として受け取れるかの目安、と思ったりしませんか?
でもそれ、ちょっと違うんです。
正しくは、こうです。
所得代替率とは、年金を受け取り始める時点(65歳)における年金額が、現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)と比較してどのくらいの割合か、を示すものです。
たとえば、所得代替率50%といった場合は、そのときの現役世代の手取り収入の50%を年金として受け取れるということになります。
(出典:厚生労働省 財政検証結果)
公的年金の特徴に、「額」ではなく「一定の価値」を保障する、というものがあります。
将来インフレや給与水準が上がった時に年金の価値が下がってしまわないよう、一定の価値つまり所得代替率を用いるのです。
いまの年金制度では、その所得代替率が50%を維持できることを目標とし、その見立てに変わりがないか、あるならばどう修正していくとよいかを定期的に検証しているわけです。
■年金額そのものは、所得代替率ほどは下がらない
先ほどの約30年後の所得代替率は今の61.7%から50.8%に下がるかも、の話に戻ります。
数字だけを見れば、いかにも年金が減りそうで心細くなりますが、実は「額」に換算するとそれほどでないという現象が起こります。
なぜなら、28年後の現役世代の手取り収入額が経済事情などを反映して上昇しているから。
今回の財政検証におけるパターン3の28年後の想定される現役世代の手取り収入は47.2万円、現在は35.7万円です。
わかりやすいように計算式に当てはめてみましょう。
・2019年現在
(現役世代の手取り収入35.7万円)÷(モデル世代の年金額22万円)=所得代替率61.7%
・2047年(28年後)
(現役世代の手取り収入47.2万円)÷(モデル世代の年金額24万円)=所得代替率50.8%
あれ?
気づきましたか?
所得代替率は減っていますが、年金額はむしろ増えていますね。
パターン3程度の世の中の推移だった場合、現役世代の手取り収入もモデル世帯の年金額も増えるんです。
でも、増え方が違う、ここがポイントです。
同じ期間の現役世代の手取り収入は約32%伸びたのに対し、モデル世帯の年金額の伸びは約9%。
なので所得代替率にすると、グンと下がることになるのです。
現在の日本の人口構成上、今後も少子高齢化状態が続き、年金制度をささえる現役世代の負担はかつてより重くなっています。
ただ、だからといって現役世代にどんどん負担をかけていくわけにはいきません。そこで受給世代にも歩み寄ってもらうことで年金制度の持続性を図っています。
それゆえ、現役世代の手取り収入ほど年金額は伸びない構造になっているわけです。
■財政検証から
所得代替率と年金額の両方を見てみると、試算結果に違った印象を持たれたのではないでしょうか。
今回の財政検証を両方の視点からまとめると、「現役世代と比べた受給世代の生活はより慎ましくなりそう、でも、実額そのものはあまり変わらない」と言えそうです。
記事では年金制度の改革も必要とした上で、個人の工夫次第で年金額を増やせる方法として
・65歳まで共働きする
・年金額を増やせる繰り下げ受給をする
と提案しています。
とはいえ財政検証の結果は、あくまでも「モデル世帯」や「現役世代の平均的な手取り収入」など一つの事例を用いているにすぎません。
つまり、自分自身に置き換えてみる必要があるということ。
どれくらいの年金額になりそうかは「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で見込み額を確認することが出来ます。
また、公的年金そのものがよくわからない、という人は厚生労働省のHP「いっしょに検証!公的年金」を見てみては。
年金の仕組みや将来の見通しが、図解とマンガでわかりやすく説明されていますよ。ご参考までに。
★2019年10月1日現在の情報です